このページでは柳沢きみお先生『俺にはオレの唄がある』に対する私の感想や、その他おすすめの柳沢漫画などをかいつまんでご紹介します。
柳沢きみお先生の基本情報は柳沢きみおについて思うことを、1巻のあらすじはこちらを、2巻のあらすじはこちらをご覧ください。
あっと驚くラスト4ページ!これまでの展開と打って変わって爽やかな読後感
ドロドロの柳沢節展開が続き、「また柳沢漫画読んで時間を無駄にしたな……」と思っていると、ラスト4ページで思わぬ方向に話が転びます。
ラストが唐突というのも柳沢漫画の特徴の一つ。前のページで少し触れた『妻をめとらば』もそうでした。そこに不満を持つ作品もなくはないですが、この『俺にはオレの唄がある』に限っていえば、この唐突さ、これまでとの展開のギャップが不思議なカタルシスを生じさせるのです。
ネタバレになるのでいいませんが、ずっと引っ張ってきた「男のやすらぎ」が何かが、とうとうわかります。それはとても身近なところにありました。
勘のいい読者ならラスト4ページに入る前に「男のやすらぎ」が何を指すのか気づいたのかもしれません。しかし私は鈍く「趣味を持て」が答えかな?瀬上は趣味らしい趣味なさそうだしとか思っていたので、この落ちには心底驚愕しました。
これまで延々と繰り広げられてきたうんざりするドロドロ劇が、ラスト4ページで一転し爽やかな読後感になるのです。これはなかなか得難い読書体験です。
ラスト4ページを読んでから全体を読み返してみると、五十嵐、金子、野島の人物像がまた違ったものに見えてきます。
中編にまとめれば傑作か?
というわけで最高の読後感で終わるこの作品ですが、引き伸ばしと脱線が多いのが気になります。連載漫画なので仕方がないことですが……。こういうお話は中編読み切りが向いているのではないかと思います。
以下3点を変えればぐっとしまった話になるのかと!(生意気ですみません)
1. 出てくる女を友美一人にしぼる
→不倫相手のまなみ、ホステスの綾、家出娘の初美とのエピソードはなくても話は通るかと。
2. 五十嵐副社長は、体調を崩した金子を会社人としては見限ってもプライベートでは見舞いに来てくれたという設定にする
→そうすれば、狂ったように毎晩銀座通いする五十嵐副社長の真意が別のところにあるようにみえ、人物に深みがでるのでは。
3. 瀬上の妻子の描写を多少なりとも入れる
→瀬上は自分の不満ばかりを述べますが、妻には妻の言い分もあることでしょう。一言二言でも妻の意見を入れておけばお話が立体的になると思います。
書き割りの女性たちと子ども
80年代中盤以降、青年誌に活躍の場を移しメイン読者が成人男性になったこともあってか、柳沢漫画に登場する女性たちの多くは、男性に都合のよい行動をとる現実感のない存在になっていきます。
子どもの存在が希薄なのも特徴。この『俺にはオレの唄がある』では、主人公瀬上は5才と2才の子どもがいる設定ですが、お話には一切出てきません。妻とは不仲でも子どもには多少なりとも愛情や関心を示す男が大半だと思いますが、子どものことを思い返すようなシーンは一つもないのです。ちょっと不気味ですらあります。
|
つげ義春先生『退屈な部屋』の影響
妻に内緒でボロアパートを借りるという設定は、つげ義春先生の『退屈な部屋』に着想を得たことは明らかで、そのことは先生本人もどこかで語られていたと思います(どこだったか……思い出したら追記します)。
柳沢先生はつげ義春先生を敬愛されており、特に『無能の人』がお好きのようです。
『特命係長 只野仁』のとあるエピソード(どの巻所収かこれまた忘れました……思い出したら追記します)では、只野の口からストレートに『無能の人』の話が出てきます。
一見全く関係なさそうな「つげ義春」「柳沢きみお」がこういうところでつながるのが面白いです。
『退屈な部屋』のあらすじ
家から10分くらいのところに妻に内緒でアパートを借り、時々訪れてはなにをするでもなくのんびりしている主人公(ルックスはつげ先生本人によく似ている)。ところが、主人公のアパートへの出入りを目撃した新聞配達人により妻の知るところとなってしまいます。
しかし意外にも妻は怒らず、調度品を揃えたりアパートにしれっと手紙を出したりして「妙なぐあい」に。ついには母親もアパートを来訪し小言を言い出します。
主人公は秘密のアパートに、言葉にはできなくても何か夢や理想を託していた(と思われる)のに、妻と母親によっていとも簡単に日常に引き戻されてしまいます。しかしそれをはっきりと不満に思うでもなく、ただただ日々が流れていく感じがユーモラスに描かれており味わい深い作品です。
|
今から柳沢漫画を読むならKindle Unlimitedの会員になるのが一番手っ取り早い
柳沢漫画はかつて売れに売れましたので古書店でも比較的安価で手に入りますが、一番手っ取り早いのはKindle Unlimitedの会員になって電子書籍で読むことです。驚くことに大抵の柳沢漫画が入っています。
Kindle Unlimitedで読める他のおすすめの柳沢漫画
Kindle Unlimitedで読める他のおすすめの柳沢漫画としては、ファッションをテーマにした青春群像劇『SEWING』(のちに『原宿ファッション物語』と改題。どっちのタイトルでも検索に引っかかります)、比較的最近の作品ではピカレスクロマンの『極悪貧乏人』など。
テレビ業界を舞台にした『100%』とかマジで怪作です。最初は割と普通のお仕事漫画なのに、ある時点から驚異的に崩れていきお下品100%になっていく……こんなハチャメチャなことが許される漫画という表現の自由さに驚くばかりです。
『羽なしティンカー・ベル』(このタイトル、生理用品を連想させるのでどうかなと思う)は冒頭のヒロインの家出についていくシーンのテンポの良さがたまりません。
他にもおすすめはたくさんあって書ききれません。初期のギャグ漫画は今読むとちょっとしんどいですが、『翔んだカップル』以降の作品はとにかくリーダブルなので、片っ端からガンガン読んでいけばいいと思います。なお、多作すぎてファンでも追いきれないのか、ウィキペディアの作品リストに載っていないものもあります。
|
|
この駄文を読んで興味を持たれた方が、自分に合った柳沢漫画に出会い充実した日々を過ごすことを願ってやみません。
コメント