【読書メモ】柳沢きみおについて思うこと

読書メモ

柳沢きみお先生の『俺にはオレの唄がある』という作品を最近読み返しまして、思うところがありましたのでつらつらと書いてみることにしました。

恐るべき仕事量で一世を風靡した漫画界の巨匠・柳沢きみお先生

『俺にはオレの唄がある』の内容に入る前に、まずは柳沢きみお先生の紹介をしたいと思います。

現在40歳以下の方々は、柳沢きみお先生のことをどれくらい知っているのでしょうか。
私は2022年現在40歳ですが、同級生で知っている人はあまりいないようです。ドラマ『特命係長 只野仁』の原作漫画を手掛けた人としてかろうじて知っているレベルかな?
書店でも単行本を見なくなりましたし、柳沢漫画はほとんど文庫化されていないので、新規読者が増えていない気がします。

私が初めて柳沢きみおの名を知ったのはラッパーのECDさんが90年代初頭にリリースした「漫画で爆笑だあ!」という曲でした。リリックの中で、『妻をめとらば』の最終シーンの悲惨さ(ネタバレになるのでここでは触れません)を訴え、当時超売れっ子で異常な量の連載を抱えていた柳沢先生に苦言を呈しています。

後追いで聴いて調べ「なんかよう知らんけど人気の漫画家なんだなあ」と思いましたが、ずっとスルーしていました。本格的に読み始めたのは2021年にKindle Unlimited会員になってからです。たいていの柳沢漫画はKindle Unlimitedで読むことができ(2022年2月現在)、その読みやすさに驚愕してコロナ禍のステイホーム時間の多くを柳沢漫画で浪費……いやエンジョイしたのでした。

柳沢きみお先生の経歴・基本情報

柳沢きみお先生の経歴・基本情報にざっと触れておきます。

先生は1948年新潟県五泉市生まれ。ご実家は絹織物工場を経営する裕福な家庭で、上に姉が4人いる「女だらけ」(というタイトルの作品がある)の家で育ったそうです。

和光大学人文学部芸術学科を中退後、1970年に週刊少年ジャンプにてデビュー。当初はギャグ漫画を描いていましたが、1978年に連載を開始したラブコメ『翔んだカップル』が映像化されるなど大ヒットとなりました。

80年代中盤以降は活躍の場を少年誌から青年誌・男性週刊誌に広げ、シリアスなヒューマンドラマから軽いタッチのお色気ものまで幅広く手掛け多くの連載を抱える人気漫画家になります。

90年代後半に入りやや停滞しますが、今度は『特命係長 只野仁』がヒットしドラマ化を果たし、現在も続く長期連載になりました。

(参考資料:柳沢きみお『自分史 [ギャグ~ラブコメ編]』、イースト・プレス ほか)

愛すべき欠点が満載の柳沢漫画

80年代後半以降の柳沢きみお漫画の特徴は以下の3点なのかなと思っています。

①読みやすい
②雑
③愚痴っぽいが薄っぺらい

読みやすい

柳沢漫画は読んでいるときに負担を全く感じません。内容がスッと頭に入ってきて、前のページに立ち戻ることがほとんどありません。
それはおそらくコマ割りやモノローグの入れ方の上手さ、キャラクターデザインの上手さから来ているのだと思います。

まず、絵が雑です。80年代中盤くらいまでは割としっかりと描かれていたのですが、連載を多く抱えた80年代後半に至っては時間短縮のためかバストアップの構図が連発されるようになります。

相原コージ先生/竹熊健太郎先生の『サルでも描けるまんが教室(サルまん)』にて、「カラダは言い訳程度にちょびっと描くだけで、ほとんどバストアップしか描かずに、それでも大ヒットをとばしている作家」と評されているのはおそらく柳沢先生のこと。
なお余談ですが『サルまん』では「Lesson24. ウケる老人まんがの可能性」にて、『妻をめとらば』14巻所収の「誕生日」のエピソードをパロっていて面白いです。

雑なのは絵だけではありません。お話も行き当たりばったりでものすごく雑なのです。なんの説明もなく重要そうだった登場人物が消えたり、辻褄が全然合わなかったりという事態が頻発します。

「雑だけどリーダブル」という感想は万人が感じるところのようで、レビューサイトなどを見ると頻繁にこのワードが出てきます。

愚痴っぽいが薄っぺらい

とくに『大市民』シリーズ後半と『特命係長 只野仁』に顕著ですが、キャラクターたちがやたらと愚痴っぽいのです。人生のさまざまなことを愚痴り議論し合うのですが、特に深みのある結論にならず内容がペラい。同じ内容を繰り返し議論することも多く「またこの話か……」と思ってしまいます。

雑とか薄っぺらいとか、ベテランの漫画家さんにひどいことをいってすみません。先生はネットとスマホが大嫌いらしいので、まず目に入ることはないだろうと思って好き勝手いってます。いろいろとこの後も苦言を呈しますけど、でも……先生のことが好きなんです。好きな子をいじめてしまう小学生男子のようなものだと思ってください。

他にも内容が下品すぎるとか芸能ネタが多くてうんざりするとか、いろいろなことがあります。それだけ「なんだかなァ」と思うことが多いのに、異常にリーダブルで続きが気になってしまうのってすごくないですか?恐ろしい才能だと思います。

端正なお顔立ちの柳沢先生

これは余談になりますが、先生本人は非常に男前で背も高く、まるで俳優のようなルックスです。「柳沢きみお 本人」とかで検索してみてください。比較的最近の、お年を召されてからの写真も渋い。趣味の水泳で鍛えているからでしょうか、お若く見えます。

作品と作家本人とを関連付けるのはよくないことですが、「こんな男前の人がこんな下品な漫画を描いているのか……」とつい思ってしまいます。

エッセイ第2弾を期待

先生は2011年に初のエッセイ『なんだかなァ人生』を出版されました。文体はこなれていませんが、漫画家人生を振り返るその内容は漫画と同様にリーダブルで面白かったです。
金銭トラブルなども含めてあけすけに語られているため、現在がどうなったかも知りたいと思ってしまいます。エッセイ第2弾を期待します。

ずいぶん長くなってしまいました。
次のページにて『俺にはオレの唄がある』のあらすじをご紹介します。

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