15世紀以降は有名な作品の紹介が多くなるかと思いますが、あまりにも大ネタですといまさら感がありますので、そこそこの知名度のものを紹介します。
ロッセッロ・ディ・ヤコポ・フランキ「聖母子」
Rossello di Jacopo Franchi「聖母子」, 1410年代, テンペラ, 宗教美術館
2008年に損保ジャパン東郷青児美術館(現SOMPO美術館)で開催された「西洋絵画の父 ジョットとその遺産展」にて購入したポストカードです。
聖母子像ですので、慈愛や荘厳さを感じ取らなければいけないところですが、聖母マリアのやや不機嫌にも見える色っぽさ、色素の薄い肌質、ヌメーとした指と手の表現がやたら印象に残ってしまう、不思議な宗教画です。
描いた当時はおそらく光背と背景が金色に輝いていたのだと思いますが、現在は落剝して背景は薄い橙~ピンクっぽくみえます。その色合いが奇妙に橙の衣にマッチしていてよい感じです。
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作者不明「パンジーの婦人」
Unknown「パンジーの婦人」, 15世紀, 油彩, ルーヴル美術館
2018年に国立新美術館で開催された「ルーヴル美術館展 肖像芸術——人は人をどう表現してきたか」にて入手。
細い顎とおでこ、うすいまぶたの中年女性の半身が描かれています。
フランス王フランソワ1世の愛妾アンヌ・ド・ピスルー・デイリー(エタンプ公爵夫人)に少し似ているような。時代がずれているので、もちろん関連はないのですが、当時好まれていた顔立ちなのかもしれません。
広いおでこが印象的です。このころの女性は、生え際を剃っておでこを広く見せるのが流行したといいますが、若い女性だけでなく中年女性もそうだったのでしょうか。
きちんとした装束で、すばらしい細工の、でもとても重そうな首飾りを下げています。
右に見える銘文はスペイン語で「見えなくとも私は覚えている」と書かれているそうです。背景には千花模様※で「思慕」を表すパンジーが描かれています。
私は、表情から「この女性が亡くなった誰かを想っている」と解釈したのですが、そうではなく、妻(この女性)を失った夫が、在りし日の妻を描かせたという説が有力とのことです。
いまとなっては、だれが、どこで描いたかもわからないこの作品。しかし、かつて生きて愛されていた人が存在したということは強く伝わってきます。
※千花模様
ミルフルール。複雑で小さな花や植物が一面に広がる模様で中世ヨーロッパに流行した
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ボッティチェリ「美しきシモネッタ」
Botticelli, Sandro「美しきシモネッタ」, 1480年, 油彩, 丸紅役員室
日本にある唯一のボッティチェリである本作品は、丸紅役員室に飾られています。
私は2008年に損保ジャパン東郷青児美術館(現SOMPO美術館)で開催された「丸紅コレクション展」と、2016年に東京都美術館で開催された「ボッティチェリ展」で鑑賞しました。もちろんそれ以前にも幾度となく貸し出しをされていて、有名な作品だと思います。
当時、絶世の美女として誉れ高かったシモネッタ。くっきりとしたEラインにどこか愁いを帯びた表情が美しい。輪郭と首のラインは黒線で表現されています。
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カルロ・クリヴェッリ「聖エミディウスを伴う受胎告知」
Crivelli, Carlo「聖エミディウスを伴う受胎告知」, 1486年, 油彩, ロンドン・ナショナル・ギャラリー
2020年に国立西洋美術館と国立国際美術館に巡回した「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」にて購入したポストカードです。同展のポスターにもメインビジュアルとして使用されていました。
イタリアのとある町の自治権が与えられたことを祝って描かれた絵で、町のミニチュアみたいなものを持っているのはそのことを表しています。受胎告知の場面なんですけど、そういう趣旨で描かれた作品のため、俗っぽいというか、カジュアルな雰囲気のなかで告知しています。左の建物には野次馬?的な人たちがいて、子どもは興味津々さを全然隠していません。
すべてのものにピントがあっており情報量が多くて、本作品を鑑賞しているとクラクラしました。
絵の上部ではさまざまな鳥が日光浴を楽しんでいます。マリアがいる方の建物の2階に、木の籠の中に入った鳥がいますが、監視している人がいないので、カラスや猫などに襲われないか心配。
天(神)からマリアへ注がれる光線は建物の孔を通り抜けて絶妙な角度です。おそらくあれも入れたい、これも入れたいと画家が欲張った結果でしょうか、とても面白い構図になっています。
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ヴィットーレ・カルパッチョ「二人の貴婦人」
Carpaccio, Vittore「二人の貴婦人」, 1490-1495年, テンペラ・油彩, コッレール美術館
2011年に江戸東京博物館で開催された「ヴェネツィア展」にて購入したポストカードです。
「二人のヴェネツィアの女性」というタイトルで呼ばれることもあります。
もともとはもっと大きな絵で、部分的に切り取られてこの姿になっているそうです。
ヴェネツィア派の画家ヴィットーレ・カルパッチョの代表作で、公式サイトによりますと、19世紀イギリスの批評家ジョン・ラスキンは、本作品を「世界でもっとも美しい板絵」とたたえたとのことです。
描かれている動物や装飾品はさまざまな意味を持つようですが、この作品でやっぱり心惹かれるのは気怠い二人の貴婦人ですね。所在なげに、ペットに目を合わせずにかまってやる感じはとてもリアルで色っぽい。血圧が低そうなお二人です。
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ヒエロニムス・ボス「放浪者(行商人)」
Bosch, Hieronymus「放浪者(行商人)」, 1500年頃, 油彩, ボイマンス美術館
こちらはヒエロニムス・ボスの有名な作品「放浪者(行商人)」のポストカードです。1500年頃の作品ですのでもう16世紀に近いですが、このページで紹介することにしました。
2017年に東京都美術館で開催されたブリューゲル「バベルの塔」展にて入手したポストカードです。
絵の解釈は他所を参考にしていただくとしまして、ポストカード制作という観点からコメントします。
本作品はご覧の通り丸い形の絵で、額縁は菱型になっています。背景色にダークシーグリーンを用いて落ち着いた印象にまとめることで、絵を引き立たせ、形の面白さを損なわないようにポストカード化しているなあと感じました。
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次回は、16世紀前半の西洋のポストカードをご紹介します。
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