2016年下半期の展覧会チラシ蒐集状況
2016年下半期に集めた展覧会チラシは147枚です。以下は開催日付順で、番号は順位ではありません。
「こどもとファッション 小さい人たちへの眼差し」(東京都庭園美術館)
写真:『ジュルナル・デ・ドゥモワゼル』より女児用ワンピース・ドレス、ケープ
西洋の18世紀から20世紀初頭にかけての貴重なこども服の例と、明治以降の日本の洋装こども服を紹介するほか、絵画、ファッションプレート、絵本、写真など150点余りからこどもの装いの変遷をたどる展覧会です。
珍しい横型の展覧会チラシで、断ち切りで英文の展覧会タイトルが左に、愛らしい赤いワンピース・ドレスにケープをつけたこども服が右にそれぞれ大きく配置されています。
赤の洋服が映える薄いベージュの背景と、小さめに入った和文タイトルのバランスが美しく、「O」の字のなかに入った図版もアクセントになっています。
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「宇宙と美術」(森美術館)
写真:トム・サックス《ザ・クローラー》
隕石や化石、ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイ等の歴史的な天文学資料、曼荼羅や日本最古のSF小説「竹取物語」、そして現代作家の作品や宇宙開発の最前線に至るまで、古今東西ジャンルを超えたさまざまな「宇宙」に関わる芸術作品を公開する展覧会です。
銀のストライプが輝くなか、展覧会タイトルがまるで天へと飛び立つようにやや傾きを付けられていて、楽しいデザインです。
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「生誕120年記念 小林かいち」(武蔵野市立吉祥寺美術館)
写真:小林かいち「二号街の女」
再評価が高まる小林かいちの生誕120年記念展です。
小林かいちは、大正末期から昭和初期に京都・新京極の人気土産物店「さくら井屋」が版行した木版摺り絵葉書・絵封筒の図案などが有名で、その可憐な画風は当時の少女たちを熱狂させました。
この展覧会チラシに描かれている「また例の道楽が初まりました、絵葉書が集めたいのです。」とは、河井酔茗『新体少女書翰文』の一節。私製葉書発行が解禁となった明治後期以降、大正から昭和初期にかけて絵葉書ブームがおこり、少女らにも蒐集趣味が広まっていたことを示しています。
私も(美術ポストカードなのでジャンルは違えど)絵葉書蒐集に血道をあげているので、当時の少女たちにインタビューしたい気持ちになりました。
(うちのプリンターの性能の限界で、上の画像ではよく見えませんが、)蛍光黄色の背景に、星のようにちりばめられたかいちの絵葉書が見ていてワクワクします。
左上には黒の箔押しで、消印のように展覧会タイトルが入っています。芸が細かい!
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「トーマス・ルフ」(東京国立近代美術館)
写真左:トーマス・ルフ《Porträt (P. Stadtbäumer)》
写真中央:トーマス・ルフ《cassini 10》
写真右:トーマス・ルフ《Substrat 31 III》
デュッセルドルフ芸術アカデミーにてベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に学んだ「ベッヒャー派」の代表作家であり、1990年代以降の写真表現をリードしてきたトーマス・ルフの日本初の大回顧展です。
開くとA2サイズの大きなポスターになります。《Porträt》シリーズは、一見ありふれた証明写真のようなポートレートが超巨大なサイズであることがポイントな作品であるため、この判型をとったのでしょう。ずいぶん制作コストがかかったことと思いますが・・・。
《Porträt》のほか、宇宙探査船cassiniが撮影し、インターネット上で公開されている土星の画像を加工した《cassini》、日本の漫画やアニメから取り込んだ画像に原形がわからなくなるまでデジタル加工した《Substrat》の3作品が展覧会チラシに選ばれています。
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「驚きの明治工藝」(東京藝術大学大学美術館)
写真:宗義《自在龍》ほか
台湾の「宋培安コレクション」から、明治期の「超絶技巧」といわれる工芸作品を日本で初めてまとめて紹介する展覧会です。
漫画のセリフのようなあしらいのなかに展覧会タイトルが入っています。ひらがなの「きの」がひとまとまりのようになっているのが面白いです。
全体的に落ち着いたトーンの作品群のなかに、ピンクのラインが効いています。
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「鈴木其一 江戸琳派の旗手」(サントリー美術館)
写真:鈴木其一《朝顔図屏風》
江戸琳派の優美な画風を基盤にしながら、斬新で独創的な作品を描いた画家として注目される鈴木其一の展覧会です。
「KIITSU」とアルファベット表記を押し出しているのが面白いです。このポップなデザインと、パキっとした美しさをもつ《朝顔図屏風》のメインビジュアルがマッチしています。
この展覧会チラシから、美術ファン以外にはまだまだ知名度が高いとはいえない鈴木其一に興味を持つ人が増えたのではないでしょうか。
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「ダリ展」(国立新美術館)
写真左:サルバドール・ダリ「子ども、女への壮大な記念碑」
写真右:サルバドール・ダリ「奇妙なものたち」
ガラ=サルバドール・ダリ財団、サルバドール・ダリ美術館、国立ソフィア王妃芸術センターの主要なダリ・コレクションを中心に国内所蔵の重要作品を加えた、日本では約10年ぶりとなる本格的な回顧展です。
ダリといえばぐにゃぐにゃ、ということで、展覧会チラシもぐにゃぐにゃに切り抜かれています。
左がペラ、右が両観音開きの展覧会チラシです。大きさはおおよそA4サイズ。
大衆の期待を裏切らないこうした試みはうれしい限りですが、こういう特殊な加工はどれくらいコストがかかるんでしょうか。保管もちょっと大変そうですよね。フチがおれないように、とか。
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「朝井閑右衛門展 空想の饗宴」(練馬区立美術館)
写真:朝井閑右衛門《丘の上》
練馬ゆかりの作家、朝井閑右衛門の画業の全貌を紹介する展覧会です。
朝井閑右衛門の傑作で、文部大臣賞を受賞した《丘の上》がメインビジュアルに選ばれています。
《丘の上》は非常に謎めいた作品です。どこか夢の中のようでもあり、子どものころの妄想のようでもあります。この不思議な作品を余すところなく伝えるには、このようにシンプルに掲載するのがよいのかなと思います。
下部は大胆な余白がとられており、作品の世界観を損なわないようにしているようです。
「Robert Frank: Books and Films, 1947‒2016」(東京藝術大学大学美術館)
写真:ロバート・フランク「Welsh Miners」
現代アメリカを代表する写真家ロバート・フランクの展覧会です。主に大学や学校などの教育機関を会場として世界を巡回するもので、この展覧会チラシは東京藝術大学大学美術館で開催されたときのものです。
余白を効果的に使用したシンプルな展覧会チラシで、ウエールズの炭鉱夫たちの真っ黒な顔が印象的です。
展覧会チラシのほか、開くとB3ポスターになるタブロイド紙風のものも配布されていました。
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「瑛九 1935-1937 闇の中で『レアル』をさがす」(東京国立近代美術館)
写真:瑛九《作品》
印画紙の上に針金などの物体や切り紙を置いて感光させ、イメージを定着させる「フォト・デッサン」で注目され、その後もさまざまな技法を駆使しながら独自のイメージを探求した瑛九の、20代半ばの3年間に焦点をあてた展覧会です。
くすんだ黄緑と黒の2色で構成されたスタイリッシュな展覧会チラシです。
黒の印刷が美しく、闇の中に浮かぶ得体のしれないものたちの質感や温度が感じられます。
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次回は、2017年上半期の展覧会チラシ 私的ベスト10をご紹介します。
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